雨の残り香

この辺りを行き来する程度の数の車の轍で路肩に寄せられた唐松の落葉はこんもりふっくらと盛り上がり足首に優しい。蹴散らす気分にはなれない。真直ぐに突き抜ける通りの辻を曲がる度にコの字の路が左右に広がるこの保養林の中はアスファルトも全て隠す絨毯となって昨夜まで降った雨でも流されずに、しっとりと存在の理由を内に籠らせて香りを放ち膝から腰、腹の内側から胸へと昇りあがる、例えようの無い体感となって吸い込まれる。

走りははじめてほぼ一ヶ月過ぎたか。雨の日は無理をしなかったがそれでも続いている。数メートルの堪えの延長を亀の走りで楽しむようになり、十日過ぎても足下の数メートル先を俯きながら睨み苦しげにどたどたしていたけれどもようやく、顎をあげあたりへ首を回す余裕もでたか。数日前から三丁目から上り回るコースを拡張し、一丁目へと一端戻り降りて迂回しそこから駆け上がる距離の延長をしたが、路地によっては永住していない家々の並ぶ場所もあり、車の入った痕跡もないので、アスファルトは他よりも上等な厚さの絨毯となっていて、走り草臥れてはいないけれどもと座り込み手のひらで撫でていた。

暖房と湯槽で躯を温め根を詰める夜が数日あったが、週末明けてみれば晴れ上がった快晴の朝陽の放射が、あっさりと気温を上げ、部屋のストーブが時期尚早の後ろめたさで色あせた。そんな季節なので窓を全て開け、日差しが森の湿り気を蒸発させる残り香を吸い込む仕立てとし洗濯物を干す。

晴れの日が二日三日続いてくれれば良いが、森の乾燥を早めることは一気に冬へ持って行かれそうで少々惜しい。