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 屋外の草の生える野原にイーゼルを並べる絵画教室で馴染みのある成人らに絵を教えた後、その空き地を庭のように構えた和菓子店の横の板塀に、木炭で説明したMBMを画鋲でとめたお礼を、借りた店に伝えようと暖簾をくぐると、ふたりの壮年の女性が皿に載せた柿をこちらに向けて、食べてみてと言うので、草の中に置いた倹しい机でお茶と一緒にいただくと、柿の蔕も、皮も、中の種も、すべて和菓子であったので、ひどく驚いた。青空教室は場所が空くまでの間ですが、よろしく頼みますと、頼まれても仕方ないふたりの女性に頭を下げていた。

 二度目の教室では、帰り際の生徒に、かなりむつかしい課題提案を求められ、小さな四角い画布にテストした重ね塗りの幾つかを示して、楽しみながら時間をかければできるさと*まだ若い、彼の肩をたたいていた。その後、また同じように、今度は終わるのを暖簾を手のひらで分けて待っていた件の女性が、今度はこれを試してよと、別の果物の載った皿を差し出すのだった。メロンだったので柿よりも驚いたが、こんなに手間をかけて採算はとれるんですか?と尋ねると、これもあれも売り物ではないのよ。女性はこっそり笑ってから、スタンダードの大量生産ばかりしていると、職人が死んでしまうのよ、と何か大きな秘密を明かすように囁いた。

 車で帰宅する途中伯母の家に寄ると、義弟である父親が先に茶を飲んでいたので、故人となった伯父が昨夜夢にでてきた話を、ふたりにすると、父親は、あれをみろと、隣の和室を指差した。花びらから刺のある茎にいたるすべてが金属でできた薔薇の造花100本が、伯母に贈られてきた。差出人は生前の伯父で、亡くなる前に職人に依頼したものらしい。出来上がるまで10年はかかった。両手では抱えきれないボリュームの、丁寧なみたことのない職人の花束、というより伯父の寡黙で無骨不器用な実直さが、狭い部屋の畳を凹ませるような重さとなって置かれてあった。かなり大枚を支払ったんじゃないか。父親が言葉にすると、花びらが18金というのが笑っちゃうわよねと伯母は大きな溜息をつくのだった。

 ふたりとも別々の車で帰るからと、玄関を出ると、遠くが白く霞んだ海洋の都市のような朝の光景が広がり、夕方だった筈だがと首を傾げると、娘が父親を後ろに乗せた自転車が一台、おくれちゃうと大きな声を辺りに心地よく響かせながら、猛烈なスピードで坂を下っていくのが見えた。

 梅雨時には、妙な夢をみるようだ。絵画教室から自転車までおそらく数十秒の幻覚のような重なりがもたらした文脈で、プロットを支える似たような過去がこちらには確かにあるが、なぜ今なのかと首を傾げる。スタンダードというのは何か新鮮な言葉だったと消えそうな夢の記憶を書き留めてから、なるほどスタンダードでは気持は伝わらないということだとまとめた。

祖母

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 20年も前に亡くなった祖母が、みたこともない土地の遺跡のような場所の、白い白骨が露呈している石組みの窪みの並ぶ墓地の、そのひとつの凹みに座り込み、自らの身体にいきなり唐突に火をつけた。此処へは旅行にきているはずだった。取り乱した私は、祖母の両脇に手を差し込んで引き上げて火を消そうとするが、祖母はそれを強く嫌がって、「いいんだよ。もう先に逝かせておくれ」と言うのだった。

 腰が抜けた私は、下半身が燃え上がる祖母をみつめたまま、私という活動が停止したようになり、燃える祖母が、全身くまなく燃えるように火種を身体に巡らす奇妙な仕草をずっとみつめていた。涙はでなかった。

 目が醒めてから、墓参りを促されたかとまず緩く考えたが、あれは祖母が、祖母という記憶の塊が時間とともに成熟し、こちらの身体の現況に即して反射するように、死の覚悟と消滅そのものを諭してくれたのではないかと、その時は腑に落ちたのだった。

 夢の中の祖母の奇妙な仕草には、自殺というニュアンスは、一切無かった。ひとつの身嗜みであり、誰にも止めることのできない決心であり、それを見守ることしか許されていない明晰さに充ちた、なにか瑞々しい仕草だった。

 病死というより、寿命を全うした祖母は、全ての子供たちに見守られて、いうなれば安らかに死を迎えたのだったが、あの臨終の時は、母と子供という空間が、他を拒絶するように在った感触がこちらに残っており、子供である私の母親や叔父たちを、そういう意味でどこか羨望したのかもしれなかった。

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